土の匂いをかぐと、元気になる車椅子のおじいさん。畑を見守り、どんどん育つ野菜の匂いに幸せを感じる女性…。そんな人々が登場する物語があります。
1997年に発表された、アメリカの児童文学作家ポール・フライシュマンの名作『種をまく人』。
日本では1998年に翻訳本が発行され、中学校の国語の教科書にも載ったことがあります。
物語のはじまりは、アメリカの貧民街に暮らす、ベトナム出身の少女がまいた小さな種でした。亡くなった父親に見せたくて、少女がマメの種をまいた場所は、街の一角にある空き地。といっても、生ゴミや古タイヤ、壊れた冷蔵庫など、無造作に捨てられたゴミが山のようになっている場所です。
そこで毎日、水をやり続ける少女の姿が、町の人々に変化をもたらしました。ひとり、またひとり、人種も年齢も違う人々が、ゴミをかたづけ、土を耕し、思い思いの種をまくようになったのです。
物語は、登場人物がそれぞれ自分のことを語る、13話のオムニバス形式で綴られています。この人たちは、知り合いでもなく、同じ目的を持って畑をつくったわけでもありません。それでもやがて、ゴミだらけだった空き地は緑の農園になり、人々はいつの間にか、収穫を喜び合う仲間になっていたのでした。
読む人の心にも希望の種をまいてくれるポール・フライシュマン作『種をまく人』。大人の皆さんにも読んでもらいたい一冊です。
*『香りの散歩道』は朝野家提供で、毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞・大阪日日新聞に掲載されます。(墨絵:朝野家社長 朝野泰昌)