( 墨絵:朝野家社長 朝野 泰昌 )
春から夏へ。季節が移りゆくことを、みなさんはどんなときに感じていますか。
朝起きて、顔を洗う水の冷たさを気持いいと思ったとき。外に干した洗濯物が乾きやすくなったときや、緑をわたる風の匂いが変わったと感じる瞬間かもしれません。どんなときでも、私たちの暮らしは季節と共にあるのですね。
それは、はるか昔から繰り返されてきた人と自然の営みであり、季節の変わり目を題材にした、こんな和歌も残されています。
春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
(はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょうあまのかぐやま)
いつの間にか春が過ぎて、夏がやって来たようだ。天の香具山に白い衣が干してあるのが見える・・・。香(かおり)という字がつく香具山は、奈良にある神聖な山のこと。歌の作者は、飛鳥時代の女性天皇、持統天皇(じとうてんのう)です。
香(かぐわ)しい緑の山と、初夏の風にはためく白い衣。言葉では描かれていない空の青さや、風の匂いまで想像できるような歌ですね。
春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
この歌は鎌倉時代に編纂された、小倉百人一首に収められています。実は、今日5月27日は、小倉百人一首の成り立ちに由来する記念日「百人一首の日」です。
そこで、今の季節にふさわしい一首を紹介しましたが、ほかにも素晴らしい歌はたくさんあります。この機会に、先人が伝えてくれた香り高い言葉の世界を、想像力で旅してみませんか。
*『朝野家・香りの散歩道』は朝野家提供で、毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞・大阪日日新聞に掲載されます。
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